米国産牛肉輸入再開 キャプチャー画像


牛肉を食べる、食べないは消費者の自由だ。産地表示が正しい限り、プリオンの汚染リスクを我々の責任で回避できるはずだが、外食や加工食品は何ともならない。食肉に供されるすべての牛について20ヵ月以下という保証を得ることができるのか? 危険部位を除いても、肉が汚染されていないという証拠を得ることは不可能だ。現在のプリオン検出法の感度以下ということでしかない。そして、プリオンは調理によって死滅できない病原体なのだ。
 医学的には、検出できない微量プリオンを時々、長年摂取し続けたとして、何らかの疾患が起きないか?という問題が重要だが、答えは当分、出ない。市場の国際化に伴う新興感染症の地球規模の拡大は重大問題である。科学の基盤が脆弱な国は、その国の存立さえ脅かされる。薬害エイズでは、米で使われなくなったHIV汚染非加熱血液製剤がわが国に流れ込み、多くの人がHIVに感染した。
 BSEで問題となるヤコブ病は、人類にとって最も悲惨な病気である。働き盛りの人や青年が突然記憶障害に見舞われ、急速に痴呆が進んで、人生を振り返る猶予も与えられないまま死に至る。誰もがヤコブ病の催患率は低いと思っているが危険な認識だ。100万人に1人の割合で発生してきたが、約20年前にヒト硬膜移植後に発病する医原性ヤコブ病が加わった。

 厚生労働省によると薬害ヤコブ病の国内被害患者は4月末で116人に上る。薬害ヤコブ病の頻度はヒト硬膜移植数を分母とすれば1000人に1人と極めて高い。薬害ヤコブ病から学ぶことは計り知れない。輸入した硬膜移植でプリオンを暴露された人の数や期間はほぼわかっており、追跡できる。発病を確実にとらえれば病気の実像がわかる。我々は00年、発病した76人のデータを解析し、20年以内に21〜84人の患者が新たに発生すると報告したが、その後個別データの公表が止まり、予測を続けられなくなった。
 薬害ヤコブ病の患者数は、予測を大幅に上回る。潜伏期間は20年以上のものもあり、まだ終息していない。米国ではアルツハイマー病患者が過去20年間で倍増し、500万人に達しようとしている。うち13%がヤコブ病という指摘もある。きわめて不吉である。わが国はヤコブサーベイランスをさらに徹底し、データは公表すべきだ。若年性痴呆症例は全例登録し、診断精度を高め、プリオン検出検査を義務化すべきである。牛の全頭検査は今後も徹底、続行すべきだ。病原体への暴露をここで止めれば、人類は薬害ヤコブの教訓を生かせる。これは日本でしかできない。わが国の科学が今問われる。

BSE&食と感染症 つぶやきブログ食品安全委員会などの傍聴&企業・学者・メディア他、の観察と危機管理を考えるブログ
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